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“未払い残業”の争いが増える、3つの理由

 「未払い残業代」――。これがいま、多くの経営者や役員、人事部の社員たちを苦しめている。最近は退職者が数人で徒党を組んで、かつて勤務した会社に「未払い残業代を支払え!」と訴えるケースが増えているのだ。
 未払い残業とは、労働者が、労働基準法に定められている「労働時間」を働いたにも関わらず、支払ってもらえない賃金の総称を言う。詳しくは、のちほど解説する。

 厚生労働省は毎年秋に「賃金不払残業(サービス残業)是正の結果まとめ」を発表するが、先日、2009年の調査結果が明らかになった。それによると、2009年4月から2010年3月の間に、全国の労働基準監督が定期監督および申告に基づく監督などを行った。そして企業に是正指導を行い、不払いになっていた割増賃金が労働者に支払われた。その額が100万円以上になった企業は1000社を超えた。

是正企業数:1221企業
対象労働者数:11万1889人
支払われた割増賃金の合計額:116億298万円
(企業平均は950万円、労働者平均は10万円)

 1企業の最高支払額ワースト3は、以下の通り。この数字を見ると、経営者や役員、人事部の社員たちは考え込んでしまうのではないだろうか。

1位:12億4206万円(飲食店)
2位:11億561万円(銀行・信託業)
3位:5億3913万円(病院)

 私が2年前の冬に取材した中小企業(東京墨田区、社員数50人ほど)でも、同じようなことが起きた。退職した元社員(30代男性2〜3人)がその会社を「残業代が未払い」として労働基準監督署に訴えた。50代の経営者は監督署から呼び出しを受け、そこで数回に渡り、話し合いをした。結局、会社は2〜3人に600万円近い金額を支払うことになったという。

 ここに出入りする業者(印刷会社)によると、経営者がこのメンバーのリーダー格を厳しく叱責(しっせき)し、彼がそれに逆恨みをしたことが一因だという。いまや会社員の企業への意識は変わりつつあるのだ。次の図は、労働者が全国の労働基準監督署に持ち込んだ労働相談の件数だが、年を追うごとに増えている。ここがまず、未払い残業代の争いが増える一因だと私は考えている。

 もう1つの理由は、一部の弁護士や司法書士などの存在である。彼らはここ数年、消費者金融などを利用する人に対し「支払いすぎたお金を取り戻そう」と呼びかけている。先日も、私の住むマンションのポストにそのチラシが投かんされていた。

 しかし改正貸金業法の施行により、いわゆる“グレーゾーン”金利が撤廃された。こうした動きは利用者からすると、金利を払いすぎることがなくなるということ。そこで、一部の弁護士や司法書士などは新たなビジネスチャンスとして、未払い残業代に目をつけた。ある法律事務所のチラシには、このようなことが書かれてある。
<ある法律事務所のチラシ>
「残業代の請求は、退職後さかのぼって2年間分はできます。初期費用は〇万円。裁判のための印紙代などの実費は、当事務所で立て替え支払いをします。会社から残業代の支払いを受けたときに精算していただきます。成功報酬は、会社から支払いを受けた金額の20%(税別)となります」
※編集部注:表現を一部変更しております。

■「自分ももらえるのではないか」と期待する会社員
 3つ目の理由として、多くの企業では残業の時間管理が厳密にできていないことがある。出社や退社の時間の記録すら不十分なケースが目立つ。出社や退社時に打刻するタイムカードの扱いについては、これまでにいくども裁判で争われてきた。通常、タイムカードに打刻された時間は、労働時間として認められる可能性が高い。

 この残業時間の管理について、社会保険労務士の滝口修一氏(NPO個別紛争処理センター副理事長)はこう語る。「残業代トラブルの主な原因は、あいまいな労務管理にある。労働者はインターネットでそのような情報を得て、自分ももらえるのではないかと期待する。まずは、労働時間管理を明確にすることが予防策になる」

 滝口氏は、適切な会社のルール(就業規則など)を作成する、もしくは見直すことから始めることを提言する。さらに必要であれば、変形労働時間※を検討する。また身勝手な残業を予防するために、許可制、確認制などのシステムを運用することも必要と述べる。

※1週48時間勤務したときは8時間分の残業手当が必要になる。しかし変形労働時間制であれば1カ月を平均して週40時間以内なら、1カ月内に48時間勤務した週があっても残業手当を支払わなくてもよい。

■トラブルになりやすい「時間外労働」と「休日労働」
 「未払い残業」の扱いでよく問題になるのは、以下の3つである。私が取材した限り、1と2が目立つ。
1:時間外労働
2:休日労働
3:深夜労働
 1の時間外労働とは、法定労働時間である1日8時間を超えた労働時間のこと。これを超えた分は「残業=時間外労働」となり、25%以上の割増賃金を支払う義務がある。誤解が生まれやすいのは、就業規則などで定められた「所定労働時間」との関係だ。私が労働組合の役員をしているときに組合員にアンケートをすると、このあたりを理解していない人は組合員の半数に達していた。

 仮に所定労働時間が7時間として決まっている場合は、法定労働時間である8時間よりも1時間少ないことになる。労働者が1時間残業し、8時間を働いたとしても、その1時間には割増賃金は発生しない。これは「法内残業」と言われるものであり、通常の1時間について支払われる賃金と同じ額の分が支給される。ただし、就業規則などで「所定労働時間を超えた労働時間に対して割増賃金を支払う」旨の規定があれば、法内残業でも割増賃金が発生する。

 2の休日労働とは、まず法定休日として原則として週に少なくとも1日設けるか、もしくは4週で4日設けることが労働基準法で決まっている。一方で、就業規則などで定められた休日が「所定休日」である。この日に出勤し、働いた場合は「法内残業」と同じ扱いを受ける。この場合は法定休日労働としての割増賃金が発生しないので、それを支払う必要はない。ここも誤解が生まれやすいところである。

 私が労組で受けた相談例でいうと、土日完全週休2日制の職場で、ある社員はそのいずれかに働いた。彼いわく、「自分は割増賃金を受け取っていない」という。しかし、これは「所定休日」に働いたことになり、その場合には割増賃金は支払われない。

 これも誤解されがちだが、その週の労働時間が40時間を超えたときには、その時間外労働の分については、会社は25%以上の割増賃金を支払う義務がある。ただし、特例措置対象事業場は44時間となっている。

 滝口氏はこう述べる。「一般的には『残業』『休日出勤』には割増賃金が支払われるもの、と思われがちだ。所定労働時間と法定労働時間、所定休日と法定休日などと区分して考えることは少ない。これも、就業規則(賃金規定を含め)などのルールがあいまい、またはそこに記載している内容が社員らに周知されていないからではないか」

 ルールの徹底がこの問題を解決していく1つのきっかけになる、と私は思う。あなたの職場は大丈夫だろうか。

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