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再選挙の末に当選 日弁連新会長は錯綜する利害対立をどう束ねる?

■無限ループ手前の3度目で決着

 “無限ループ”は避けることができた。

 4月27日夜、平成24年度・25年度の日本弁護士連合会会長が決まった。史上初の再選挙の末に、山岸憲司弁護士が、現職で2期連続会長就任を目指していた宇都宮健児弁護士を破った。再選挙は史上初。2012年1月11日に公示されてから、選挙戦は実に3ヵ月半に及んだ。

 2001年から進められてきた司法制度改革によって、弁護士の就職難や法曹を目指す人の減少など、この2年でさまざまな問題が明らかになり、深刻化している。もはや問題を放置することはできないほど、弁護士界では不満が噴出していた。今回の選挙は、司法制度改革によって決められた弁護士界の進むべき道を、どのように修正をするのかという点で、注目が集まっていた。

 会長選挙の選挙権は全国の弁護士が持つ。当選には、最多得票に加えて、全国の弁護士会の3分の1(18会)以上で最多得票を取るという二つの条件を満たしていなくてはならない。2月10日の第1回目の投票、3月14日の上位2人による再投票でも当選の要件を満たせず、再選挙となっていた。

 再選挙でも、立候補者は山岸氏と宇都宮氏。公約にも1回目の投票時から大きな変化はなく、支持層の変動は少ないだろうという見方から、永遠に当選者が決まらない“無限ループ”に陥ると見られていた。

 弁護士たちの間では、「もううんざり」「そもそも興味が無い」「だれがなっても同じ」など冷ややかな反応が大勢を占めていた。そんな空気を感じていたのか、2月27日の夜、「決まってよかった。もう誰でもいいから、とにかく決まってくれ、という気分だった」と、日弁連関係者は胸を撫で下ろしていた。

 当選後の記者会見で、山岸新会長は「空白期間を取り戻すべく、会の執行に邁進したい。法曹人口問題、養成制度問題などの課題に早急に取り組んでいく」と抱負を語った。


■決議までして山岸氏を推す最大派閥・法友会の気合

 今回、山岸弁護士の当選に一役買ったのが、弁護士の世界にある最大派閥、法友会である。それも、山岸氏当選に「なみなみならぬ気合を入れていた」(関係者)。

 一般にはあまり知られていないが、弁護士の世界には、政界さながらの派閥が存在する。存在意義や目的は政界と同じだ。つまり、日弁連の主要な役職などを各派閥から排出し、影響力を保持・行使することを狙う。日弁連会長のポストはその最たるもので、長らく各派閥が送り込んでいた。

 ところが、現職で2010年の会長選挙で当選した宇都宮弁護士は派閥には属しておらず、派閥からすれば、長年手中にしていたポストを無派閥勢力にかっさらわれた格好になっていた。今回の選挙は、会長のポストをもう一度、派閥の手に取り戻す選挙だったのだ。

 各候補の公約内容は、法曹人口問題や給費制、若手弁護士の支援など大きな差はなく、派閥が影響力を及ぼす選挙戦という色合いを濃くした。

 法友会の気合は、2011年12月13日の「次期会長選挙に臨む法友会の方針に関する決議」に垣間見える。内容は「現会長の宇都宮氏を支持しない」「山岸憲司弁護士を支持する」「山岸憲司弁護士と尾崎純理弁護士の活動の一本化を切望する」というものだった。

 山岸氏は法曹親和会という派閥に属し、尾崎氏は全友会という派閥に属する。法友会からは候補者は擁立しなかった。しかし、会長ポストを派閥の手中に取り戻すために、派閥間の壁を乗り越え、団結する必要があったのだ。だからこそ、先の決議内容の3つ目にある「活動の一本化」が示された。

 派閥に属する弁護士は、選挙運動に駆り出された。前出の弁護士は「仕事の合間を縫って、知り合いの弁護士に電話をかけて、だれに投票するのか聞いて、決まっていなければ、山岸氏に入れてくれるようにお願いしていた」と話す。

 結局、尾崎弁護士が立候補したため、「山岸氏との活動一本化」は実現せず、派閥の票は分裂してしまった。しかし、第1回の投票結果と再投票の結果を分析してみると、派閥に属する弁護士が多い東京などの都市部を中心に、山岸弁護士が最多得票となっている。一方で派閥とは関係のない地方からは、宇都宮氏に票が集まった。


■“被災地の弁護士を事務総長に”山岸陣営が切ったカード

 再選挙での決着のポイントは、1回目で落選してしまった尾崎弁護士と森川文人弁護士に集まった票を、いかに取り込むかであった。

 すでに地方での支持を盤石なものとしていた宇都宮氏は、山崎氏の総獲得票数を逆転するために、尾崎票と森川票から1000票の上積みが必要だった。山岸氏にとっては、地方の各弁護士会の支持をどれだけ取れるかということだった。

 最初にカードを切ったのは山岸氏だった。再選挙の公約に「復興を目指す東北の地から事務総長を」として、仙台弁護士会所属の荒中(あら・ただし)弁護士を事務総長に任命すると明記したのだ。

 荒弁護士は福島県相馬市出身で、ある関係者は「“被災地の弁護士”というのが効いた」と話す。本来であれば、「バックについた法友会の有力者を事務総長に送り込むはずだが、法友会はそれを捨ててでも山岸氏を会長にさせたかったのだろう」(同関係者)。

 一方の宇都宮氏は、4月20日に出された2つ成果を強調して、山岸氏に対抗した。一つは総務省が「法曹人口の拡大及び法曹養成制度の改革に関する政策評価」で、司法制度改革で決定されてきた法曹人口問題、就職問題、法科大学院、法曹養成制度などについて、再検討するように法務省と文部科学省に勧告したこと。もう一つは民主党と自民党、公明党の3党で、司法修習生に対する経済的支援を検討するということで合意したことだ。

 だが、宇都宮氏は1000票の上積みは叶わず、反対に山岸氏が地方で最多得票に成功し、当選となった。ちなみに仙台弁護士会は、荒弁護士の事務総長就任公約のおかげか、山岸氏がひっくり返している。


■派閥をバックに当選した山岸氏が対立軸をどう調整するのか

 山岸憲司新会長は、難しい舵取りを迫られるだろう。弁護士界内部でも「地方・都市」、「若手・ベテラン」、「派閥に属さない・派閥に属する」など、さまざまな対立軸が存在するからだ。

 地方で圧倒的支持を集めていた宇都宮弁護士の支持層の意見を、どう吸い上げて、彼らの要望にどのように応えていくのか。

 若手弁護士の意見をどれだけ反映させることができるのかも問題だ。若手弁護士のなかには「日弁連や弁護士会に期待などしていない。興味がない」と言う声も多く、弁護士会離れが加速している。

「派閥に属してオイシイ思いをしてきた“オジイさん弁護士”のための弁護士会。若手は無視」と言い放つ者もいる。根底には就職問題や給費制廃止など、弁護士の間にある世代間格差問題に対して、弁護士会が成果を上げられていないということがある。

 また、派閥に関して言えば、法曹人口問題について山岸氏は、現在の年間3000の合格者に対して、「司法試験合格者数1500人」を掲げた。ところが、山岸氏の当選に一役買った派閥所属の弁護士たちは、司法制度改革推進の中心的存在だった。つまり、法曹人口増加を押し進めてきた弁護士たちだ。早くも、「派閥をバックに当選した山岸新会長は、本当に1500人を実現できるのか」と不安視する声も聞こえる。

 弁護士界には、地方・都市・若手・派閥のそれぞれに、積年の不満が溜め込まれている。悠長に会長任期の2年間もの時間をかけて不満を解決していくような余裕はない。山岸氏は、自ら掲げた公約を具体的にどう実現させるのか。

 法曹人口問題については、宇都宮前会長も増加に歯止めをかけるように努力をしてきた。山岸氏は宇都宮氏がとってきた手法よりも、有効な手法を考えだし、成功させなくてはならない。結果が出なければ、すでに存在する「日弁連不要論」の声が大きくなるだろう。弁護士界は空中分解し、司法制度改革の掲げた「市民のための司法」も何もなくなってしまう。早くも山岸新会長は、正念場に立たされていると言える。

ニュースソース:ダイヤモンド・オンライン

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